ダイヤモンドに眼鏡にカップ麺・・・。無料配布が大流行である。先月はイタリアのファッションブランド・ディーゼルがメルマガ登録でTシャツを無料プレゼントと、少々指向を変えて展開し、話題を呼んだ。今度は駅ナカの自動販売機で本来購入すべき缶コーヒーがタダでもらえるというのだ。
<JR池袋駅のエキナカ自販機で缶コーヒーがタダでもらえる?!>
自販機スペース「mediacure」シークレットキャンペーン!「UCC THE CLEAR」をもれなくプレゼント!(毎日新聞・PR TIMES 3月15日 http://tinyurl.com/yfad6t9 )
上記記事はJR東日本管内に設置された約1万台の自販機を運営するJR東日本ウォータービジネス社(以下、JR東WB)のプレスリリースに従って書かれた記事だ。記事とリリースでは詳細がわからないため、同社広報に取材してみた。
JR池袋駅(5、6番線)ホーム上デジタルサイネージ(電子看板)機能を持った専用ブースが設置され、3月15日の初日は10時と14時の各1時間、発売前(3月29日発売)の「UCC THE CLEAR (ザ・クリア)無糖Milk 缶190g」の商品サンプルがもらえるというもの。写真のように時間になるとブースの扉が開いて、キャンペーンガールも登場して盛り上げる。安全のため警備員も登場だ。同社によると、ホーム上で実施のため人が集まりすぎる懸念から実施時間を明らかにしない「シークレット」という展開をしているという。
飲料を自動販売機を使ってサンプリング(無料配布)するという例は、コカ・コーラのおサイフケータイ対応の自販機の一部にはサンプリング機能が搭載されていたり、新宿駅前でカルピスの自販機で行われたりとこれまでにも例がある。しかし、ホーム上という展開では恐らくこれが日本初ではないだろうか。
街ナカと駅ナカでの配布は何が違うか。それは、客層だ。街ナカでは配布の列に並ばれれば、どんな人でも拒否できない。池袋駅ホーム上ということであれば、ホワイトカラー層と若い女性が多い。配布したい層にその属性が近ければ効果的だ。もう一つ。街ナカの自販機ユーザーは9割が男性であるという。対して、駅ナカのJR東WBの自販機は女性客の利用が4割に上る。女性にもリーチしたいときには有利だ。
JR東WBが1万台を展開する通常の自販機は「acure(アキュア)」というブランドだ。今回は「mediacure」と、「メディア」という名前が付いている。自販機ビジネスからメディアビジネスに進出ということかとも思ったが、同社の思惑はそれだけではないようだ。
その名の通り、mediacureはデジタルサイネージも含めて全体として交通広告媒体であることは間違いない。無料配布とサイネージでの広告放映に関してはメーカーから広告料を得て、それで本来の飲料販売機会の消失を補填しているという。しかし、本質的には同社の狙いは「自販機とデジタルサイネージの親和性を検証し、より双方向な新たな自販機のカタチ、可能性を追求すること」(同社広報)にあるという。
このあたりは同社独特のスタンスが現れていると言っていいだろう。現在、自販機のほとんどは飲料メーカーが自社の製品販路として展開している状態だ。各メーカーの商品が混載されているように見える自販機も、運営会社に飲料メーカーの資本が入っているため、実際には取扱商品にメーカー系列の偏りがある。
全く飲料メーカーの資本が入っておらず、「消費者が買いたいモノを並べる」というスタンスで展開しているのはJR東WBのみなのだ。それ故、同社はメディアとしての機能を優先して「広告として配布や放映をするのではなく、あくまで小売業として、消費者が購入したいものを優先する」(同)という。そして「我々はメディア事業は副業であり、あくまでも飲料及び飲料自販機を通じ、先進的小売業を目指したいと考えている」(同)ときっぱり言い切った。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。